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がんばる商店街30選とは?/what's

発酵力豊かな酒米が育む 老舗酒蔵の元気な美味さ

米を作る。酒を飲める。ともに、「贅沢なこと」と米作りの名人はいう。
力強い麹を作る、ありのままの味を残す。ともに、「美味さの秘訣」と酒蔵の主はいう。
いい米と、いい酒蔵が出会ったら…。それだけで、心が酔いそうだ。
「簡単に作ろう」「量を作ろう」という利便性が美徳だった時代は終わった。
米作りに、酒造りに、身を捧げるふたりの融合が、一品ならぬ絶品を世に送り出す。
ふたりの譲れない思いの結晶が、その味に凝縮している。
吉久保 博之[吉久保酒造]
山ア 正志・美穂[アグリ山ア]

年に一度、米作りの喜びをしみじみと味わう瞬間がある。苦労と努力が報われる瞬間である。
 「量は飲みませんが、自分の作ったお米で醸した酒を呑むのは格別ですよ」と、山ア正志さんはその旨さと香りを脳裏に浮かべる。筑波山の南に位置する岩井の地で、四五年、米作りに挑んできた農業人だ。
 酒米として「美山錦」を耕作する。品種的には弱い米だ。ちゃんと作らないと、力のある米は生まれない。チカラのあるおコメ…。「味にこだわるように米づくりをしていることを酒米にも適用していることで、酒を作る力のある米が出てくる」という信念が貫かれている。
 それに確信を与えたのは、水戸の老舗酒蔵「吉久保酒造」の蔵元・吉久保博之さんの酒造りだった。
 「どんな特訓をしてきたんですかというくらい(笑)、山アさんの酒米はよく発酵してくれますね」と評する。
 泡の立ち方も、発酵過程も、麹のさばけの良さも、他の酒米とはひと味違う。温度を抑えないとどんどん発酵してしまうので、冷却には通常以上に氷を要し、冷却マットも余分に多く巻かなければならない。当然、醸造には、手間暇がかかる。しかし、その労を惜しまない吉久保さんの酒蔵で、山アさん自慢の酒米についた酵母たちは存分に活動する。出来上がった酒は力強く、味の深みは計り知れない。おかげで、『山アさんのお米で作ったお酒だね』とはっきりわかる酒が作れるようになったという。
 「私も、酒米を作る技術を得た、とここ数年感じていますよ」と山アさん。作る喜びと飲める喜び。山アさんは、「二回味わうことができて申し訳ないくらいです(笑)」とちょっぴり控えめだ。
 昨年は日照時間にも恵まれ、「いい酒米が出来ました」と今年の酒米の粒を披露する。その心白の大きさに、「今年の米はめちゃくちゃいいですね」と杜氏の鈴木忠幸さんは太鼓判を押す。質の良さは、県内でも別格だという。  米づくりは年に一回。酒造りもしかり。年に一度の勝負に賭けるふたりのたしなみは、職人芸に満ちている。

産地と街が出会うとき


アグリ山アは、先祖代々から続く農家ではない。
初代・山ア七郎氏が戦後、丈高い葦だらけの沼地だった勘助新田で
こつこつと開墾に努め、水田を切り拓いてきた。
以来、おいしい米づくり一筋に励んできた。
 単身で大陸にわたり広大な満州で大陸農業に従事した山ア七郎さんが、命からがら帰国したのは昭和二十一年のことだった。満州開拓で実現できなかった稲作を郷里で実現させたいと、故郷・水海道に近い岩井(現・坂東市)の勘助新田に入植した。丈高い葦だらけの沼地での開拓は人力だけが頼り。苦難の開拓だった。鍬を手に夫婦でこつこつと開墾に努め、飯沼川沿いの湿地を水田に替え、二町歩近くに水田を拡大していった。
 後継者として父・七郎さんと共に稲作に取り組んだ二代目の正志さんは、大規模化による合理的農業経営を模索する一方で、化学肥料や農薬づけの水稲耕作に疑問を覚え、環境配慮型の有機農法に乗り出していく。昭和五六年、アメリカ米作農業視察へ参加し、生産から販売まで一貫して農業者が当る方式に水稲耕作の未来を描く。帰国後、農業法人「アグリ山ア」を設立。本格的な大規模耕作に乗り出していく。
 平成十二年には正志さんの長女・美穂さんが農業経営に参加。オーガニック検査員、米穀検査員の資格を有する三代目を配して、アグリ山アは「生産」「集荷」「検査」「販売」「保存」の一貫体制を確立する。
 「おいしい米づくりと共に、安全、安心を約束することこそ使命」と考え、アグリ山アは有機栽培を基本としながら、半世紀あまり米づくり一筋に取り組んできた。現在、営農規模約五七ヘクタール。コメの生産出荷量が年二四〇トン。有機米のコシヒカリは、地元の歴史に縁の深い平将門にちなみ、「将門ひかり舞」として自社ブランドとなっている。特別栽培米の「美穂郷の米」や、農林水産大臣賞を受賞した「農家のミルキークィーン」など人気商品がずらり。老舗酒蔵の信頼を得て、酒造米も手がける。
 生産から販売までの分野でそれぞれが責任を担い、品質にばらつきのない、安全で安定した食味を維持している。グローバル化する時代に合わせ、筑波山麓からおいしい米を世界に届けようと、現在、ニューヨークにある老舗食料品店「KATAGIRI」に自社の米を卸す。世界に向けた挑戦は、これからである。

救民妙食 vol.02