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がんばる商店街30選とは?/what's

発酵力豊かな酒米が育む 老舗酒蔵の元気な美味さ

良質の土の中でじっくり育った牛蒡は、その芯までぎっしりと実っている。
土にまみれた真っ黒な風貌に、ちょっと不釣り合いな甘さと香り。そこが、にくい。
牛蒡作り一筋に励んできた「親父さん」の、がっしりした手のひらは、温かい。
作り手の愛情を一心に受けて、牛蒡は堂々と料理人の手にゆだねられる。
店中に漂う牛蒡の匂いが、「親父さん」の時間と苦労を物語る。
満足気に食べる客たちの笑顔に、料理人も「親父さん」も、したり顔だ。

仁平 一美[仁平農産]
磯崎 秀弘[山翠 料理長]

 郷土料理の老舗「山翠」の料理長・磯崎秀弘さんは、牛蒡作りの達人をこう評する。
 「いい食材に出会うと、どういう人が作っているのかなって、顔が見たくなるんですよ。会ってみると、まさに牛蒡屋の親父という印象でしたね。牛蒡も太いし、親父さんもがっしりしている(笑)」??。
 体貌は豊かで色黒だから、一見、武骨かと思いきや、語り始めると笑みが絶えず、言葉に優しさがある。仁平一美さんは、そんな親父さんだ。生産者生き写しの牛蒡を食べて、「なるほどな」と、みな納得する。五年前、ふたりの出会いもそうだった。
 仁平さんの牛蒡は、太い。ふつう、この太さだと、中まで繊維が詰まっていることは稀で、「す」という空洞ができてしまう。
 「ところが、半分に割ってみると、『す』がまったくないんですよ。びっくりしてかじってみると、やはり美味しかった。甘味がある。案の定、火を入れたら、もっと甘味が出る。それから仁平さんの牛蒡を使い始めたんですよ」(磯崎さん)。
 甘味とともに、「香りがいい」と客からも好評だという。山翠の定番料理「軍鶏鍋」には、牛蒡は不可欠。鍋が煮込まれてくると、店内に甘い匂いが漂ってくる。ささがきにしても、サクサクと触感がしっかりしている。「仁平の牛蒡」に惚れ込む客は、多い。
 「でもね」と仁平さんは言う。「牛蒡は、脇役。主役が引き立てばいい。主張しちゃだめだよ、と昔から言われて育ててきたんですよ。そういう牛蒡を作りなさいって」??。
 そう、主役は軍鶏。でも、「仁平の牛蒡」は、名脇役。だから、時には主役で登場する。
 「メインにもなりますよ。牛蒡のスープなど、先付の代わりに出すのですが、これも好評ですね」(磯崎さん)。
 店で使うには、「美味い」だけではメニューに加えるのは難しい。需要と供給の約束が守れるか否か…。
 「通年で出荷できますから。霜を克服してね。ここからは企業秘密(笑)」(仁平さん)。
 その笑顔まで、ブランドと呼ぶにふさわしい。

産地と街が出会うとき


赤土が育てた素朴な味。父の代から守ってきた牛蒡を栽培する。
日々の天候と対話しながら作付けを行い、生育を静かに見守る。
初夏、牛蒡の花が咲き、葉がたおやかに繁る頃に収穫。
土から姿を見せる牛蒡には、それぞれに豊かな表情があるという。
 茨城県は、首都圏最大の牛蒡の産地である。作付面積、生産量、出荷額ともに青森県に次いで全国第二位を誇る。気候温暖、台風など自然災害も少ない茨城の畑作土壌は、関東ローム層。浅間山など火山の噴火によってたくわえられた、軟らかく、ふくらみも保った土だ。野菜の栽培全般に向いた土地柄だから、根を長く、深く伸ばす牛蒡には最適な条件になる。
 なかでも、行方市の芹沢の地は、牛蒡の栽培で長く知られる地域だ。芹沢の牛蒡は「赤土の牛蒡」として、香りとその食感で高い評価を受けてきた。その昔、仁平一美さんの父も、この土地で芹沢の牛蒡を作り、その伝統を一美さんも引き継いだ。
 芹沢を本拠地に、牛蒡の生産を手がける。十五年前には四ヘクタールほどだった牛蒡畑は、今や栽培総面積約三〇ヘクタールに拡大し、畑は芹沢周辺から、湖面をはさんだ霞ヶ浦の南岸にも点在する。ふたりの息子・学さん・徹さんも牛蒡栽培に参加、生産規模は大きく拡大し、年生産量はスタート時の八〇トンから、約六〇〇トンへと順調に伸びてきている。
 仁平さんの牛蒡は、健康志向の波に乗って評価され、その品質は折り紙つきだ。入念に土を深く掘り、また掘り返す。水はけを良くし、害虫除けに土の消毒にも気を配る。堆肥の補充、連作障害を招かないように畑は、交替をくりかえす。空いた畑の輪作にはネギや大根をあてる。最も労力の要る「ゴボウ抜き」では、まるで建設重機のような米国フォード社製の専用掘り取り機が活躍する。
 農薬はなるべく使わず、標準の使用料の半分。肥料も半分。その土地に合った育て方を追求する。そして、「土をずっといじっていると、いい農場は美しいと感じる。マズイものができるわけがない」という。西洋野菜と比べれば、姿や形では、東洋のオリジナル野菜の牛蒡は一目瞭然、ちょっぴり見劣りする。しかし、野菜も「見かけによらぬ」もので、その味わいはなかなか隅に置けないのである。「仁平の牛蒡」に惚れ込む人びとは、しみじみとそれを感じている。

救民妙食 vol.02